愛罪
僕はそっと瑠海をベッドから抱きあげると、一度真依子のことを頭から振りはらって自室を出た。
瑠海の小さな手が僕の背中のシャツを掴み、その愛おしさに胸が疼く。
彼女と触れ合っていると、ふと思うのだ。
僕は本当に幸せ者だと。
母親を失い、もともと諦観していた人生をちゃんと生きていられている気がする。
僕を必要としてくれるのは、瑠海だけ。彼女のため僕は生き、そして母親の苦しみをこの胸に抱くまでは何があろうと命は消せない。
「瑠海、メロンパンかドーナツどっちがいい?」
僕が見えない場所で歯磨きをしたくないと言った瑠海の気持ちを尊重し、キッチンのシンクで歯を磨く瑠海に問う。
僕は冷蔵庫から出したミルクを彼女専用のプラスチックのコップに注ぎ、シンクへ振り返った。
「ドーナツ!」
「ちゃんとくちゅくちゅペッてしてね」
要望通り、チョコレートがコーティングされた見るからに甘ったるいドーナツとコップを手に、口をゆすぐ瑠海に声をかけてソファへ向かった。
僕がソファに腰かけると、水を止めた瑠海がぱたぱたとこちらへ近寄り、ぴょんと隣に飛び乗る。
ちゃんと拭ききれていない頬の水滴を指先でぬぐってあげると、瑠海はお礼を口にしてドーナツを手にした。