愛罪
「お兄も食べるー?」
口の周りにチョコレートをつけた瑠海が差し出したドーナツを、一口貰う。
口いっぱいに広がる甘さに少し苦難しながらドーナツを飲みこむと、テーブルに置いていた携帯が震えた。
ちらりとそれを確認すると、知らされる着信は真依子からだった。
「お兄、電話出ないー?」
テーブルの上で定期的に鈍い音を出して震える携帯をじっと見つめる僕に、瑠海が言う。
僕はふと視線を隣へ移すと、ドーナツを頬張る瑠海に小さく笑いかけた。
「…真依子。瑠海、出る?」
「真依ちゃん!?出る!」
彼女の前では、真依子に不信感を抱いている僕を見せたくない。
僕の言葉、真依子の存在で瑠海がこんなに嬉しそうに笑うのだ、絶対に知られてはいけない。
未だに震える携帯を取ると、僕は通話ボタンを押して瑠海の手にあるドーナツと携帯を入れ替えた。
「もしもし!瑠海だよー!」
小さな手にはまだ大きすぎる携帯を耳に当てた瑠海は、電話の向こうにいる真依子に人懐っこく話しかける。
とてもじゃないけれど、真依子は僕には浮かびあがらせることの出来ない笑顔を瑠海に容易く浮かばせた。
悔しくないと言えば、嘘になる。
同性という距離感は、やはり何をしたって超えられない壁らしい。
何やら楽しそうな瑠海の声に一抹の不安を抱えながら、僕は黙って会話が終わるのを待っていた。