愛罪



+++



「真依ちゃん、次はあれに乗ろー?」

「うん。いいわよ」



 家族連れで賑わう、午後の遊園地。

 昨晩、瑠海には悪いけれど願った雨天にはならず、遊園地日和の快晴が頭上に広がった。



 絶叫マシーン等で絶叫した試しのない僕は何にも乗らず、しっかりと手を繋いで園内を歩く二人の後ろを付いて歩く。

 すれ違うのは、父親に肩車された子供のはしゃぎ声や、歩きながら食べられるスイーツを親にねだる子供の声。



 まさに、幸せに満ちた空間だ。

 辛いという言葉の中に無理やり足された一本の棒が僕で、偽りの幸せの中を彷徨っているよう。



「そら。あなたは乗らないの?」



 優しい風に乗って届いた美声にふと視線を前に戻せば、今か今かとコーヒーカップを見る瑠海と手を繋ぐ真依子が僕を見て小首を傾げていた。



 こうなった経緯は、言わずもがな昨日の彼女からの電話だった。

 瑠海に出させたのが僕の失態で、真依子からの着信は“明日休みなのだけど、前に瑠海ちゃんと約束した遊園地、どうかしら” というものだった。



 もちろん瑠海は頷き、僕は電話を切ったあとに瑠海からその内容を聞いた。

 かけ直して断ればよかったのだけれど、楽しみだとはしゃぐ瑠海を前に、そんなこと言えるはずもなかった。



< 114 / 305 >

この作品をシェア

pagetop