愛罪
「僕はいいよ」
僕には目もくれない瑠海を一瞥して答えると、真依子は小さく頷いて瑠海とコーヒーカップの列に並んだ。
陽気な音楽を背に、僕は近くに設置されたベンチに腰かける。
視界を流れていく人々は、僕のように無機質な表情を浮かべてはいない。
誰もがこの場を満喫し、いつかは消えゆく記憶だとしても今を楽しんでいる。
僕だって、瑠海と二人ならばきっと少しは楽しめたはずだ。
そして、真依子と普通の友人として付き合ていれば、例え三人で訪れていても笑顔のひとつくらい浮かべていただろう。
「お兄ー!」
道ゆく人を瞳に映してぼうっとしていた僕を呼ぶ、愛おしい声。
思考するより先に振り返った自分を追うように瞳が景色を認識すると、くるくるとスローペースに回るカップの中から瑠海がこちらに手を振っていた。
満面の笑みだった。
僕が軽く手を振り返すと、それに満足したのか繋がっていた目と目は瑠海から逸らされて、向かいに座る真依子に移る。
この間まではそれが酷く寂しかったのに、少し慣れてしまった自分の感情が憎い。
瑠海が懐いているのだから致し方ないとわかってしまった自分は、まるで可愛げのない子供のようだった。