愛罪
瑠海にとって遊園地は、実はこれが初めてだった。
だから、真依子に断りの電話を出来なかったというのも一つの理由だ。
まだ上手く喋ることも出来ない内に祖母と暮らすようになり、これといった遠出をしたことがない。
何度か瑠海をどこかへ連れていってあげようと試みたこともあったけれど、母親の遺産で生活している今のように金回りはよくなかった。
彼女が楽しいのならば、僕はそれを傍で見つめるのが役目。
例え、憎く思う謎の女性が、そばにいようともーー。
「ちょっと目ぇ回っちゃったぁ」
「お兄ちゃんの隣に座ってて?何か飲み物買ってくるわね」
コーヒーカップから降りてくる人ごみに紛れ、楽しそうにそう言う瑠海が真依子の指示で隣に座った。
待っててねと美しく笑った真依子が栗色のロングヘアを翻し、少し先に見える売店へ向かう。
スキニージーンズにベージュのアーガイル柄セーターと、カジュアルな服装を着こなしたその華奢な後ろ姿を見つめ、ふと瑠海へ視線を落とした。
「瑠海、楽しい?」
彼女のオーラから答えはわかりきっていたけれど、その口から楽しいと聞きたくなった。
瑠海は僕を見あげ、小さく笑いかけた僕にこくりと大きく頷いて見せる。
そっか、とポニーテールにした瑠海の頭をそっと触ると、彼女は何かを思いだしたように再び僕を見あげた。