愛罪
「でも、お兄と乗れないのは楽しくない!」
瑠海はわざとらしく拗ねて見せると、悪戯っぽく笑って無防備な僕のお腹を叩いた。
彼女なりの、精一杯の甘え…なのかもしれない。
真依子と二人でも十分楽しんでくれているものだとばかり思っていたけれど、とんだ間違いだった。
勝手にそう仮定していた自分が実に情けなく、少しでも寂しく思わせてしまったことを酷く後悔した。
「お待たせ。瑠海ちゃん、オレンジジュースでよかったかしら?」
「うん!ありがとう!」
まるで僕たちの会話に割り込むよう、真依子が売店から戻ってきた。
透明のカップに小さな角形の氷が入ったオレンジジュースを瑠海に手渡し、彼女は瑠海の隣に腰かける。
瑠海は僕に背を向けて、真依子と楽しそうに言葉を交わす。
青ガラスのように晴れ渡った空はどこまでも広がり、己のちっぽけさと不甲斐なさを痛感した。
「ねえ、お兄!あれだったら乗れるー?」
天を仰ぐ僕に軽く体を寄せた瑠海に視線を落とせば、彼女はこの敷地の中で一番大きなアトラクション、観覧車を指さしていた。
ちらりと真依子を見ると、僕の視線に気がついた彼女は軽く我に返るようこちらを見て、笑んだ。
心ここにあらず、といった様子だった真依子を少し気にかけつつ、くっつく瑠海を再び見おろして僕は小さく頷いた。