愛罪
割りとスムーズに乗れた観覧車は、想像より遥かに不安定で、乗る前はわくわくと心を踊らせていた瑠海も静かになってしまった。
「お兄…!こわい!」
ひとりで椅子を独占していた瑠海は、僕と真依子が座る方へと移動し、僕たちの間へ割りこんだ。
くっつく小さな体が何とも愛おしく、僕の肩に顔をうずめた彼女の腰に腕を回してあげる。
「瑠海ちゃん、高いところダメなの?」
「どうかな。初めてだから。これ乗るの」
ぎゅっと僕にしがみつく瑠海の背中を優しくさすった真依子の言葉にそう返せば、彼女は一瞬すごく切なげな表情を垣間見せて外の景色に目を遣った。
何となくその視線を追うと、ちょうど天辺に差し掛かったところだったようで、空が一層近くなる。
「あたしも初めてなの。兄と来るのが叶わなくて」
ぽつりと真依子が口を開いた。
反応したのは僕だけで、瑠海はよほど外を見たくないのか黙って僕にしがみついている。
真依子は空から外した視線をふと僕に戻すと、今まで見せたことのない柔軟で美しい笑みを浮かべた。
その瞬間、時間がとまったような気がした。
なんて綺麗に笑うんだ。
かき回された感情は渦を巻いたように絡み合い、僕の思考を乱す。
違う。真依子のそれは、罠だ。
そうやって彼女をとことん悪人に仕上げても、本能とやらは騙せなくて。
僕は瑠海を抱きしめる手とは違う空いた手を無意識に伸ばし、その指先で真依子の白い頬に割れ物を扱うようそっとーー触れた。