愛罪
「…そ、ら?」
驚くほどに儚くて、苦しいほどに切ない真依子の声が密室に響いた。
僕はその声にはっと我に返り、けれど彼女の滑らかな肌に触れた手は真依子から離れようとはしなかった。
不思議そうに、僕を見つめる真依子。
「……真依子らしくないよ、その顔」
自分を誤魔化すようにそう呟いて、僕は真依子の頬を軽くつねる。
彼女にあらぬ感情を抱くなんて、本望じゃない。
真依子は母親の死に関わっているかもしれない容疑者のひとりなのだ、何があったって一線を越えた関係を築くはわけにはいかない。
真依子は優しく触れられていたはずの僕の、手のひらを返すような行動に些かむっとした様子で僕の手首を掴んだ。
「あたしらしいって何かしら」
「…さあ」
「いい加減ね、全く」
彼女も、少しは動揺したのだろうか。
僕の手をそっと頬から外すと、その手を瑠海の背中に置いてぷいっと外の景色に視線を移した。
読めない横顔は、今にも泣きだしそうな、そんな不安定なもの。
兄を思いだし、センチメンタルになったのかと勝手に推測した僕は、地面が近くなった観覧車からの景色を見せてあげようと瑠海に声をかけた。