愛罪
「瑠海。もう高くないから怖くないよ?」
ぽんぽんと優しく背中を叩くと、僕の肩にぎゅっと顔をうずめていた瑠海が恐る恐るその瞳を晒した。
少し眩しいのか大きな瞳を細め、きょろきょろとまるで巣から初めて外界を見る小鳥のような瑠海。
「…もう終わり?」
「そ。終わりだよ」
視界の低さに安堵したのか軽く僕から離れた瑠海の言葉に、小さく頷く。
すると彼女はくるりと真依子へ振り返った。
「真依ちゃん、瑠海、お馬さんに乗りたい!」
「お馬さん?あ、メリーゴーランドね!」
「めりいごらうんどー?」
「ふふ!惜しいわね。めりー、ごーらんど、よ」
メリーゴーランドを上手く発音出来ない瑠海を微笑ましそうに見つめ、ひとつずつ言葉を教える真依子。
瑠 海の顔を覗きこむようにして話しかける彼女は、ただの優しい女性だった。
「お兄と真依ちゃんはここで瑠海のこと見ててね!」
「見てるよ」
「写真、撮ってあげるわね」
観覧車を降り、比較的空いていたメリーゴーランドの前で瑠海はにっと笑って言った。
瑠海が馬に乗りたがったため、僕と真依子は乗らないことになったのだ。
素っ気なく頷いた僕とは違い、真依子はバッグから出したデジカメをちらつかせて瑠海に笑いかけた。