愛罪
係員のお兄さんの抱っこで純白の馬に乗せて貰った瑠海は、しっかりとポールを握りしめてこちらを見る。
隣で真依子がひらひらと手を振ると、それに答えるよう瑠海はくしゃりと笑った。
周りには自分の子供を見つめる両親が数組いて、係員さんの合図でメリーゴーランドが回り出した。
「そら」
近くにいると少しうるさい陽気な曲に混じり、真依子の声がした。
ちらりと横目に彼女を見るけれど、真依子は回ってくる瑠海を見逃さないようにか、メリーゴーランドを見ながら僕に綺麗な横顔を向けている。
「…あたし、ちゃんと瑠海ちゃんを楽しませてあげられているかしら」
「…どういう意味」
一周して、僕たちを見つけて手を振る瑠海をデジカメにおさめる真依子。
僕の問いに彼女は、瑠海が視界から消えてから答えを返して来た。
「そのままの意味よ。あたしは、兄とこんなところにきたことがなかったから。瑠海ちゃんを見てると、昔の自分を見ている気分になるの。そらを慕う瑠海ちゃんが、凄く健気で可愛くて仕方ないの」
真依子は、デジカメを手にしたまま零すようにそう言葉を紡いだ。
再び回ってきた瑠海には決して見せない憂いの表情を僕だけに残して、真依子は瑠海と笑顔を交わす。
本心かどうかなんてわからないけれど、もしその言葉が本当なら、僕は君をどういう目で見ればいい?
答えのない問いかけは、メリーゴーランドの陽気なメロディーに紛れて虚しく消えた。