愛罪
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「…お邪魔します」
「どうぞ。汚いけれど」
タクシーで眠ってしまった瑠海を抱く僕は、玄関を開けた真依子に促されて彼女の家にお邪魔した。
オフホワイトのシンプルで洒落た外観の30階建タワーマンション。
真依子の部屋は、14階の角にあった。
タクシーの中で、彼女は披歴した。
“母は、あたしが小学校低学年のときに男を作って逃げたの”だと。
父親は真依子とお兄さんのためを思い、ふたりの親権を持つことを決めて母親と離婚したらしい。
真依子は僕の膝の上で眠る瑠海を優しい眼差しで見つめ、終始心を冷たく凍らせたように無心で過去を語った。
僕は、特に何も言わなかった。
何を言っても彼女を擁護し、同情を口にしてしまいそうで結んだ唇を開くことが出来なかったのだ。
「適当に掛けてて。あ、瑠海ちゃんはソファに寝かせてあげていいわよ」
父親は留守らしく、静まり返ったリビングに僕を通した真依子は隣接したカウンターキッチンに入った。
リビングは、部屋全体を優しい雰囲気に演出するミックスウッドの家具一式が完璧な配置で佇む。
キッチンから聞こえる食器が重なる音を背中に、僕は毛並みの整った肌触りの良いソファにそっと瑠海を寝かせた。