愛罪
一部の壁一面にはガラスが嵌めこまれていて、夕日に包まれた街が見渡せた。
僕は瑠海の頭のそばに腰を沈め、ふと目の前に視線を落とす。
(……お兄さん、かな)
円形のガラステーブルの向こうにあるテレビ台、恐らく真依子のアクセサリーであろうシルバーのピアスやネックレスがいくつか並ぶ中、一枚の写真が写真立てに入った状態で置かれていた。
クリスタルの写真立ての中には、濃紺のダークな振り袖を着た真依子と、どことなく真依子の雰囲気と似たスーツ姿の男性が映っている。
「兄よ」
キッチンから出て来た真依子は、ゴールドの花があしらわれたソーサーをかたりとテーブルに置いた。
カップの中で淡い湯気をあげるのは、甘い香りを漂わせるミルクティーだ。
真依子も同じカップを手に僕の隣に腰かけた。
「目、君にそっくりだね」
「そうみたいね。よく言われたわ」
真依子は小さく笑ってカップに唇をつけた。
真依子の兄は、パーマがかったお洒落な黒髪に小さな輪郭、真依子に似た大きな猫目を柔らかく微笑ませることの出来る素敵な人だった。
振り袖姿の真依子に寄り添うよう、背の高いスリムな体で黒いスーツを着こなしている。
黙って写真を見つめる僕を、真依子は何も言わずに見つめていた。