愛罪
「…死ぬことの呆気なさって、家族を亡くした者にしかわからないわよね」
静寂としたリビングに響いた、真依子の美声。
妙に力強く聞こえたそれに、初めて写真から逸らした視線を隣へ移した。
彼女はまるで僕の瞳を待っていたようにじっとこちらを見つめ、少し猫目を細めて形の良い唇で弧を描いた。
「…僕もそう思うよ」
彼女が何を伝えたいのかわからず、僕は少し眉根を寄せて呟いた。
すると真依子は小さく頷いたかと思うと、ふと目を伏せて口を開く。
「よね。苦しいわ、凄く。泣いても泣いても足りないの。もう、いくら願ったって逢えない…」
心なしか小刻みに震えていた。
彼女の美しくはっきりとした、美しい声が。
さぞ、辛かっただろう。真依子はきっと、凄く兄を愛していたんだと思う。
曖昧な愛情しか持っていなかった僕とは違って、心の底から兄が大切だったのだ。
「離婚してね、父はあたしたちを育てるために朝から晩まで働いてくれていたの…。その間あたしの面倒を見てくれていたのが兄でね、中学生って遊び盛りなはずなのに小学校から帰ってくるあたしを家で毎日必ず待ってくれていた」
真依子はちらりと写真立てを一瞥して、そのあと僕を見た。
揺れる瞳が僕を捉えて、苦しいよって、辛いよって、そんな苦い感情を訴えてくる。