愛罪



「次はチューリップ!」



 膝の上に座る瑠海からの要望で、僕は彼女の小さな手を取り、自ら出された人差し指を鍵盤に置いてチューリップを奏でた。

 瑠海は自分の指先で紡がれるメロディーがよほど嬉しいのか、楽しそうにチューリップを歌う。

 親馬鹿ならぬ兄馬鹿かもしれないけれど、瑠海は歌が上手だ。

 きっと、幼稚園なんかに通っていたら瑠海が一番歌がうまい子供だろうな(兄馬鹿かな、完全に)。



「お兄、チューリップは何色が好きー?」



 赤、白、黄色、と歌ったところで瑠海が僕を見あげてそう訊ねた。

 瑠海が顎をあげて僕を見あげたため、彼女の白いおでこに唇がくっつきそうなほど距離が近くなる。



「うーん、白かな」

「どーして?」

「瑠海の肌の色みたいで可愛いから」



 そう言って瑠海のおでこに軽く唇を当てると、彼女は嬉しそうに笑って“瑠海も!”と体を反転させた。

 無茶な動きをする瑠海に危ないでしょと注意するけれど、聞いちゃいない。

 瑠海はベージュに染まった僕の髪の毛をぐしゃぐしゃと触ったあと、きゃっきゃと笑い声をあげながら両手で前髪を掻きあげた。



「お兄も白くて可愛いよー?」

「瑠海には負けるよ」



 瑠海は桃色の唇で僕のおでこにちゅっとキスすると、満足げに笑う。

 いつまでこんなことをしてくれるかなと考えると、何だか妙に寂しくなった。



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