愛罪
適当に音符を並べていた瑠海が鍵盤から指を離したことで、現実に引き戻される僕。
彼女は膝の上からぴょんと降りると、迷うことなくベッドへ向かった。
(…眠くなったかな)
ころんとベッドに寝転がった瑠海を見て、僕はピアノの蓋を閉じて立ちあがる。
瑠海はシーツの上にうつ伏せになり、ベッドに近づいた僕をきょろりと見あげた。
「瑠海、眠い?」
「ううん~」
否定しながらも睡魔と戦う瑠海は、胸がきゅんと鳴るくらい愛おしい。
僕はそっとベッドに腰かけると、彼女の晒された体にシーツを被せてとんとんとゆったりしたリズムで背中を叩いてやる。
最初は僕を見あげて静かに瞬きしていた瑠海だったけれど、五分もすればその丸い瞳を薄い目蓋で隠した。
一定の間隔をあけて小さな寝息を立てる瑠海。
世界でいちばん、可愛いと思う。
例えいくつになったって、この感情は変わることを知らないだろう。
いつか彼氏を連れてくる日が来ると思うと少し寂しいけれど、瑠海には僕とは違う、平凡で暖かい毎日を過ごして欲しい。
だから、悔しいけれど嫉妬は隠しておこう。
部屋でふたりきりになったふたりに気が気じゃない僕は、嘘でもついて出かけよう。
まだまだあどけない彼女の純真な寝顔を見つめながら、僕はぼんやりと幸せな未来を思案した。