愛罪
瑠海の背中に手を添えたままいつの間にか眠ってしまっていた僕が覚醒したのは、携帯のバイブ音でだった。
遠くから聞こえるそれにふと目蓋を持ちあげた僕は、瑠海の小さな体を守るように倒していた上体をのそりと起きあがらせる。
すやすやと気持ち良さそうに眠る瑠海を起こさぬようそっとベッドを離れ、ピアノへ近づいた。
止むことなく着信を知らせる携帯は、ピアノの体の上で寒そうに震えていた。
(………随分久しぶりだな)
表示される“あやめ警察署”という活字にそんな呑気なことを考えながら、僕は携帯を手にした。
「もしもし」
「こんにちは、後藤です」
相変わらず爽やかで清々しい声で挨拶をした後藤さんに、僕は無愛想にどうもと返す。
彼の声色はどちらかと言えば前回の電話より落ち着いていて、多少の余裕さえ伺えた。
「以前お話しました件で、お会いしたいのですが…」
「いつでも大丈夫です」
「そうですか。では、明日の午後三時頃にこちらへ足をお運び頂けますか」
僕は肯定を示して後藤さんとの電話を終えた。
通話画面を待ち受け画面に戻して、ちらりとベッドを見遣る。
きっとまた曖昧な調査報告しかないのだろうけれど、と半ば諦めながら、僕は未だに眠る愛おしい存在の元へと歩み寄った。