愛罪
「…そらくん、少し痩せましたか」
もう座るのは何度目か。見慣れた茶革のソファに腰を落とすと、僕に続いて向かいに腰かけた後藤さんがそんなことを口にする。
思わず眉を顰めて彼を見ると、その端正な顔は屈託ある笑みを貼りつけていた。
「お体は大事になさって下さいね。それとも、何も喉を通りませんか…?」
真剣な顔で何を言うんだ、と思った。
しかしふと、最近の食生活を思い返してみる。
昔から食にあまり興味はなく少食だったけれど、こうして指摘されてみれば確かに最近は食事をとる余裕は正直なかった。
母親が亡くなってから瑠海を引きとり、僕の生活は自分中心から瑠海中心へと移り変わったのだ。
祖母に連絡をして料理の行程を聞くのも、毎朝ちゃんと起きるのも、全て瑠海のため。
それに関しては何てことないけれど、妙にむず痒い気持ちになった。
まるで、母親のことを深く気に病んで食事も喉を通らない、と解釈されたみたいで。
何だか凄く、胸が痒くなった。
「…別に、変わってないですよ」
「そうですか?ならいいのですが…」
僕の言葉を煮え切らない様子で受けとった後藤さんに、「何かわかったんですか」と本来の目的を催促する。
はじめこそ僕を心配そうな目で見ていた彼だったけれど、観念したように話を進めた。