愛罪
「早川茉里さんは真依子が殺した。…そうでしょ」
早川茉里(はやかわまり)。
良太さんの担当ナース。彼女の友人。
疲労で自ら命を絶ったという女性だ。
僕の抑揚のない静かな声に、真依子は寸分の動揺を瞳に浮かべた。
見逃すはずがない。僕はずっと彼女の瞳を見つめているのだから。
「…そら。何を言っているの」
「僕が聞いてるの。質問に答えて」
話を逸らせるとでも思ったのか、彼女のそれを容赦なく振り払う。
真依子は僕の態度に小さく自嘲じみた笑みを零し、長い間繋がっていた視線をふっと外した。
その彼女の視線は、テーブルの上のマグカップへ落ちる。
「…あなたには、関係ないわ」
「なくなんかないことは君が一番わかってるんじゃないの」
ちらりと横目に彼女を一瞥した。
マグカップにあった真依子の視線がすっとこちらへ移動し、そして目が合う。
僕の言葉は確実に聞こえたはずなのに、彼女は何も言わない。
結んだ唇をぴくりとも動かさず、黒のメイクで縁取られた綺麗な猫目に僕を映す。