愛罪
「…償いのつもりなんじゃない。兄を、救えなかった」
後ろめたさなど微塵も感じないのだろうか、真依子は僕を見つめたままそう告げた。
感情なんてまるでなく、ロボットが人工的に喋らされたかのような冷たい声。
それでも美しさはひとつも欠けず、逞しくも儚い声がそこにはあった。
真依子の言葉を理解しなかったわけではないけれど、僕は口を閉じながら待った。
彼女が、まだ何か言いたげな眼差しを向けていたから。
そんな僕の無駄な配慮を感じてか、真依子は静かに続ける。
「茉里が言ったの。お兄さんを救えなくてごめん、と。…気が狂うかと思ったわ。救えなくて?馬鹿言わないでよって。彼女は、自分の命であたしに誠意を見せたのよ」
悲しむ様子は感じ取れなかった。
真依子が友人の茉里さんの自殺を悔やむ姿は、僕の妄想に終わる。
寧ろ喜んでいるようにさえ思えてしまう物言いに不快感を覚えたけれど、繋がる視線で悟られぬよう表には出さなかった。
「真依子が追い込んだんじゃないの。…彼女も、主治医も、…僕の、母親も」
目を見て言ってやろうと決めていた僕は、チャンスだと踏んで静かにそう零した。
やっと真依子を追い込めるものが手許に揃った気がして、渇いていた心が歓喜で潤う。