愛罪
葉月さんに会いに来た理由は、並べればキリがないような気がするけれど、一番はやはり。
こんな僕を守ってくれたお礼を言いたくて、だ。
僕に事情聴取しようとした警察の方に、今は一人にしてあげて欲しいと頼んでくれた葉月さん。
思っているよりもずっと、彼女は僕を見てくれていた。理解してくれていた。
そんなことも知らず、葉月さんは僕を好いてはいないだろうと決めつけていたことを心から恥じた。
だから、会いにきた。
感謝や謝罪、言葉に出来ない想いを伝えるため、僕は彼女に会いにきた。
「ママね、お仕事で遠くにいるの」
「瑠海ちゃんのために頑張ってるんだね」
甘えるみたいに僕の太ももに片手を置いた瑠海が言うと、葉月さんは優しく目尻に皺を作って微笑む。
僕には、哀しく笑ったように見えた。
物静かで淑やかな葉月さんが僕の部屋をノックする、焦りを宿したあの音。
今、脳内で木霊した。
僕の名を連呼する声は、誰が聞いても些か情けなく震えて、助けを請う旅人のように焦燥感に満ちていた。
ずきりと頭痛が駆け抜けたところでふと現実に引き戻されると、楽しそうに笑い合う声が全身を包む。
どうやら瑠海は葉月さんと打ち解けたようだ。良かった。
何があっても瑠海を一人にはしないけれど、もし僕に最悪の事態が訪れたとしても、祖母以外にも頼れる人間を作ってあげることが出来た。