愛罪
両親のいない人生を恨むことのないよう、瑠海には出来るだけたくさんの人に囲まれて生きて欲しい。
兄としての僕の願いだ。
あの日、母親の死がなければ。
僕の大切な存在になっていたかもしれない真依子も、瑠海の傍にーー。
「お兄?」
軽く太ももを揺すられて、僕はまた一人の世界に入りこんでいたことを知る。
我に返って視線を落とすと、心なしか不安げな瑠海の瞳と出会った。
「葉月さんは?」
「わかんない」
瑠海を見た瞬間から向かいが無人だったことに気づいていた僕が聞くと、瑠海は細い眉を下げて首を横に振った。
無性に嫌な予感がして、僕は自然とリビングの戸口へ振り返る。
「瑠海、少し待ってて」
「どこにいくの?」
「葉月さんのところ。カップ以外には触らないで、ここでお利口さんにしててね」
行かないで、とでも言うように僕のシャツを掴んだ瑠海の頭を撫でて立ちあがる。
彼女にとっては広すぎるリビングが心細いのだろうとはわかっていながら、今は葉月さんを放っておけなくて僕は瑠海に小さく笑いかけてリビングを出た。