愛罪
「そらくん、ごめんなさい……夏海さんのことを楽しそうにお話しになる瑠海ちゃんを見ていられなくて……」
葉月さんは目許をティッシュペーパーで軽く押さえながら、声を震わせて言った。
やっぱり僕が無茶なお願いをしたからだと後悔する。
こうして母親の死で未だに涙を流してくれる人を見てしまうと、僕の選択は正しいものなのかと疑問を感じた。
瑠海のためだと思っているけれど、そうじゃないんじゃないか、と。
それでも僕に母親の死を打ち明ける覚悟はまだなくて、泣きじゃくるであろう瑠海の『どうして?』に答えてあげられないことが悔しいのだ。
葉月さんには悪いけれど、やっぱり僕には瑠海を選ぶことしか出来ない。
「…あの日、僕をひとりにしてあげてって言ってくれたこと、警察の人から聞いた」
静かな部屋にスローテンポの洋楽を流すよう、僕はそっと口を開いた。
見つめる先にある葉月さんの俯いていた顔がゆっくりと持ちあがり、少し歪んだ表情が僕を捉える。
涙に濡れた女性というものは、例えその事情が何であれ醜く美しい。
ただ瞳から透明の液体を流しているだけなのに、どうしてこうも僕を揺さぶるのだろう。