愛罪
相手が葉月さんでも、泣き顔は綺麗だと素直に思った。
もともと品のある顔立ちをした方だけれど、涙はこうも女性を魅力的にしてしまうのかと改めて感じた。
「…大したことはしておりません」
ゆったりとした動作で首を横に振った葉月さんは、再び下を向いてしまう。
違うんだ、違う。
彼女に謙遜させるために会いに来たわけじゃない。
僕は、ただ“感謝”してるんだ。
「違うよ。葉月さん」
薄く笑った僕に気がついたのか、葉月さんは驚いたようにはっと顔をあげる。
そのはずだ、僕は彼女に一度だって笑顔を見せたことがない。
瞠目する濡れた目を見つめ、僕は言う。
「ありがとう」
嘗て、これほどまでに感情を込めたありがとうを誰かに伝えたことがあっただろうか。
我ながら、ほんの少し感動した。
感じたことのない羞恥心が胸いっぱいに広がって、どうしてか再び瞳を潤ませる葉月さんを前にちょっぴり焦る。
「葉月さん…?」
「ごめんなさい。これは嬉し涙ですよ。そらくんは私を嫌っているのだと思っていたので……あなたの笑顔を見れたことが、嬉しくて…」
葉月さんに歩み寄ってその華奢な肩に触れると、彼女は泣きながら笑って僕を見あげた。
なんだ、そうか。すれ違っていたのか、僕らは。