愛罪
人並みに恋愛だってセックスだってしてきたはずなのに、魅力的な人間を前に怖じ気づくだなんて。
つくづく、僕は素直じゃない。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかしら。長居しても迷惑よね」
表ではすかした態度で、何も考えていないように佇む僕に何を思ったのか、真依子は薄く笑って立ちあがる。
葛藤していた僕にはいい刺激で、思わず伸びた手が無防備だった彼女の細い手首を捉えた。
これが一世一代のプロポーズだったなら、手首を掴んでもう一度隣へ座るよう誘導して、愛を囁いただろう。
けれども残念ながら、プロポーズでも何でもない、今日会ったばかりの“上品で下品”な女性の心をもっと知りたい、触れたいと願ったまで。
僕は、回りくどいことは苦手だ。
「そら?」
弾かれるよう僕に振り返った彼女の手首を少々強引に引くと、ベッドに倒れこんだ華奢な身体に馬乗りになる。
大きな猫目が瞠目し、ぱちくりと瞬いて僕を見あげた。
「…抱かせて」
「ちょっと…ずいぶん直球ね?」
「フーガを愛する女性に出会ったの、初めてなんだ。下品だと思ってた真依子が急に魅力的に見えた」
「下品って失礼ね。…でも、あたしも初めてよ」
意外に彼女もその気だとわかったのは、初めてよと呟きながら僕のパーカのチャックをおろしたこと。
所詮、男と女なんてこんなもの。
求める理由が何であれ、受けとめてしまえば快感を得るため互いを刺激しあうのだ。
テラスの向こうは日が沈みはじめ、薄暗くなった室内がムードを演出する。