愛罪
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今日の僕は、何だかおかしかった。
昨日葉月さんと会って感情に微量の変化が訪れたからか、日課である瑠海の寝顔を見つめて眠りにつく前から、妙に心がざわついていた。
だから、今。
僕は、瑠海を泣かせてしまった。
「お兄のバカぁ!」
ぼろぼろと大粒の涙を流す瑠海は、下着とパジャマの上着姿でシーツにくるまって僕を見あげている。
僕は彼女が座りこむベッドの傍に立ち、つい先ほど自分が口にした言葉を既に後悔していた。
『ママ、いつ帰ってくる?』
朝、服を着替えさせるとき、瑠海はたまに母親のことを僕に聞く。
いつもなら、『いつかな』『もうすぐかな』と彼女の笑顔を崩さないように微笑むのだけれど。
僕は、どうかしていた。
『帰ってこないかもしれない』
本当は、そんな悲惨なことを言うつもりは毛頭なかったのだ。
瑠海にとって僕の言葉がどれだけ影響のあるものか、改めて痛感した。
僕がはっとしたときには既に彼女は泣いていて、ズボンを脱がせた僕の手からするりと抜け出してベッドにあがってしまった。
静かな部屋に響く、瑠海の嗚咽。
聞きたくない。世界一聞きたくないものだった。