愛罪
いっそ耳を塞いで現実から目を背けたかったけれど、僕には出来なかった。
泣きながらも僕の優しい抱擁を求めるようにこちらを見る瑠海から、逃げるなんて出来なかった。
でも、抱きしめてあげることも出来なかった。
「…着替えたら下りておいで」
白のシフォンブラウスとデニムスカートをベッドに置くと、僕はしばらく見つめた瑠海を残して自室をあとにした。
階段を下りてリビングに入ると、迷うことなくソファへ向かう足。
崩れるようにソファに腰を沈めて、重いため息を零した。
そのままずるずると体を横に倒し、目許に流れる髪などお構い無しに電源の入っていない漆黒のテレビ画面を見つめる。
何だか、無性に苦しくなった。
ーーゴールは、どこにある?
ーー本当に、僕は間違っていない?
ーー瑠海は、幸せ?
ーー明日は、笑えている?
ーーこのまま、死んでいくの?
ーー僕は一体、何がしたい?
(わかんない…)
自問自答ほど虚しいものはなくて、ただ繰り返される瞬きを無意識に数える。
真依子とは、あの日以来会っていない。
音沙汰なしだ。全く、彼女が何を考えているのかわからない。
尤も、彼女も僕がわからないだろうけれど。