愛罪
何だか全てを見透かされてしまいそうな気がして、僕は何も言わずに個室へ足を踏み入れた。
無言でソファに腰を落とすと、後藤さんは静かに扉を閉めて向かいのソファに座る。
「二条さんと何か?」
気を遣って黙りこむではなく、後藤さんは柳眉を寄せて小首を傾げた。
まさか、と普段は爽やかに笑う端正な顔がそんな風に歪む。
はじめて人とわかり合えた感情の変化は、思っているより僕を弱らせた。
すれ違いとはなんて哀しいものなんだろうと悔やみ、話し合いはなんて素敵なものなんだろうと心が震えた。
なのに今僕は、まるで腹の探り合いをするかの如く真依子との関係を築きあげている。
自分が何をしたいのか、わからなくなった。
ただ、どうして母親が死を選んだのか、それが知りたいだけなのに。
どうしてこんなに、毎日悩まなきゃいけないのだろう。
「…僕が今してることって、何ですか」
後藤さんにはたくさん助けて貰っているし、数少ない信頼している人の中のひとり。
知っている人間に弱みを見せたのも恐らく初めてだった。
僕の人間性を多少なりとも理解してくれていた彼は、僕の覇気のない声とらしくない言葉に一瞬動揺した様子だったけれど、小さく笑んで浅く頷いた。