愛罪
「おかしいですね。そらくんはもうわかっているはずですが」
困ったように愁眉を作る後藤さんを見つめ返しても、彼の言いたいことは伝わらない。
黙る僕を見て、何故か白い歯の羅列を覗かせて明るく笑った後藤さん。
「何があったかはわかりませんが、私が言ってあげられることは少しだけですよ」
きっと無愛想な表情しか見せていない僕に嫌な視線ひとつ送らず、後藤さんは言う。
「そらくんは間違っていませんよ。君がしていることに意味など必要ないですし、かく言う私も一度は全てに意味を探して母の死の事実から逃げたくなったものですから」
照れ臭そうに黒髪を触った彼を見て、何とか僕を励まそうとしてくれているのが伝わった。
後藤さんにもそんな日があったのか。
その言葉を聞いて、単純ながらほんの少しだけ救われた。
ゴールのない道を行くのは辛いものだと聞いたことがあるけれど、本当にそうだと思う。
何が正解か不正解かわからないのに、見えない何かを求める僕はその道を行くことがふと怖くなった。
意味などなくていい。
後藤さんのくれた言葉が本当ならば、僕は無心で母親の想いを探り出すことしか出来ないのかもしれない。