愛罪



「そらくんの元気がないと、妹さんも悲しそうでしたよ」



 思案に耽る僕にまるで追い討ちをかけるよう、後藤さんが瑠海のことを口にした。

 軽く落としていた視線をあげると、柔らかく笑う彼と目が合う。

 今朝あったことは伏せておこう。

 僕は後藤さんの優しさを無駄にしないようにと考えて、静かに口を開いた。



「…この行動に、意味なんていらないんですよね」



 自分に言い聞かせるよう、念入りに確認するよう、僕は呟いた。

 ばらばらと床に散らばった言葉たちは静かに僕の足許に転がり、室内は静寂に包まれる。



 恐らく数十秒の間のあと。

 膝に肘を預けるようにして手を組んだ後藤さんが、僕を見つめて言った。



「立ちどまってられないのは、私が一番わかりますから。意味なんて、あとから付いてくれば上出来ですよ」



 彼は言ったあと、また照れ臭そうにはにかんだ。

 照れるくらいならギザなこと言わなきゃいいのに、といつもみたいにひねくれたことを考えられた自分に少し驚いた。

 確実に後藤さんの声が心臓に響いた瞬間だった。



 立ち止まってられない。その通りだ。

 葉月さんとも分かり合えたのだ、僕の目的はたったひとつに絞られた。

 感情の変化に動揺し、自分や瑠海を苦しめている暇などないはずだ。



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