愛罪
「瑠海には、母親は仕事で遠くに行っていると伝えているんです。いつ帰ってくるのって聞かれて、帰ってこないかもって最低なこと言っちゃいました」
懺悔室で許しを請うよう独りでに語りはじめる僕を、後藤さんは黙って見ていてくれた。
「…彼女を見ていると、ふとしたときに罪悪感がわきあがって…今朝は、本当どうかしてました。自分をコントロール出来なくて、瑠海には情けない姿を見せてしまいました」
スローペースで言葉を並べた僕は、深く吸いこんだ息をゆっくりと吐き出した。
胸の中を独占していたモヤモヤした黒いものが消え、空いたスペースに新鮮な空気が送りこまれるのを感じる。
薄く目蓋を閉じてそれを受け入れていると、ずっと口を閉じてくれていた後藤さんが静かに唇を開いた。
「そらくん、随分と人間らしくなりましたね。これは嫌味でも何でもありませんよ。妹さんも、きっといつか理解してくれる日がきます。今は私と一緒に真実を突き止めることを優先に、妹さんを見守っていきましょう」
前屈みだった体勢を正した彼は、唇で弧を描いて爽やかに微笑んだ。
こんな僕に向けるにはもったいないほど素敵な笑顔は、こっちが恥ずかしくなるほど純粋で、常に暗い表情を貼りつける自分がとたんに情けなく思えた。