愛罪
「…自分への償いじゃないかって言ってましたよ」
「償い?」
「彼女が自殺したのは、あたしへの償いじゃないかって」
真依子は、確かにそう言った。
担当ナースである茉里さんの死は恰もあたり前だとでも言うように、力強く儚い声でそう言っていた。
後藤さんは僕の言葉を聞き、スーツの上着の懐から黒革の手帳を取り出した。
付属のボールペンでさらさらと開いた手帳に何かを記し、僕を見つめる。
「もう一度、二条さんにお会いしてみます。彼女はやはり、何か知っていますね…」
カチッとボールペンのインクを戻すと、後藤さんは柳眉を寄せて頷いた。
僕だって同じだった。
だから意地でも何かを聞き出そうと思ったけれど、彼女はそれを許してはくれかった。
「またご連絡しますね。ご足労ありがとうございました」
ソファから立ちあがった後藤さんは座る僕に軽く頭を下げ、戸口へ移動する。
その手がドアノブに触れた瞬間、僕は彼の背中にこう伝えた。
「ありがとう…ございました」
だらりと首を項垂れさせるよう頭を下げると、スーツの衣擦れで後藤さんが振り向いたのがわかる。
ドアノブから手を離して僕に近づいた後藤さんは、何も言わずにとんと僕の弱った肩を叩いた。