愛罪
僕の愛撫で少し頬を紅潮させた真依子は、乱れた僕のベージュの髪を適当に触ると僕の足の間に滑りこんで色っぽく微笑んだ。
“あたし、されるよりする方が好きなの”
そう豪語しただけあって、確かに彼女のテクニックは群を抜いていた。
「頑なに声は出さないのね」
「…何。聞きたいの」
僕のそれを触りながら小さく笑んだ真依子の手を攫うと、僕は上体を起こして彼女の熱い体を組み敷く。
刹那だった。家のベルが鳴ったのは。
この時間のこのベルは、僕が鍵をあけてくれるかもと期待する母親が鳴らす音。
「平気、母親だよ。ここ、ピアノがあるから防音だし」
「そう…でも気にしちゃうわ。お母様の部屋は?近くない?」
「…ん。一階だから大丈夫」
僕は小さく答えて、真依子と熱い視線を交わした。
甘美。まさに、美しい甘さだった。
こんなに官能的なセックスは初めてだったし、何より彼女の感性の繊細さに惹かれた僕には快感至極だった。
「そら、もうだめよ…あたし…っ」
瞳を虚ろにさせた彼女の姿に痺れをきらし、歪む表情を見せたくないがために彼女の体を反転させて僕は達した。
体を支えきれなくなってシーツに埋もれた真依子に、覆い被さるよう力尽きる。
互いの官能的な呼吸がしばらく室内を埋め、僕はぼんやりとしていた。
21年間の人生で何度も体験してきたけれど、今日ほどカタルシスを味わったことは今まで一度だってなかった。
頑固な僕の心は“運命”を“運命”と呼ぶことを嫌ったけれど、悪くないなと苦笑したのも本心だった。
疲れ果てて寝息を立てはじめた真依子の体から、そっと起きあがる。
さすがに裸のまま放置は出来ないため、床に落ちた下着を着せて僕は自室のシャワールームへと向かった。