愛罪
母親が健在の頃は、ひとりが寂しいだなんて思ったことも考えたこともなかったというのに、今はひとりが寂しい。
こんなに広かったっけ、と見回したリビングは僕を嘲笑っているようだった。
ソファに座り、隣に置いた携帯で時刻を確認していると丁度チャイムが鳴った。
まだ一時間も経過していないけれど、訪問者が真依子だとわかった。
重たい腰をあげて玄関に向かうと、返事もせずにドアを開ける。
「…久しぶりね」
その言葉通り、久しぶりに見た彼女は変わらず美しかった。
薄いピンク色をしたシンプルなワンピースを一枚さらりと着こなし、相変わらず華奢な脚の先はヒールの低めなパンプスが彼女の足許を上品に飾る。
珍しくポニーテールに纏められた長い髪は、何だか瑠海を想像させた。
「お邪魔してもいいかしら」
ひらひらと顔の前で手が揺れたかと思うと、にこりと小さく微笑んだ真依子が問う。
僕は無言で一度頷くと、彼女を玄関へ招いて戸締まりをした。
「お邪魔します」
真依子の綺麗な声は、どうしてか胸を締めつける。
僕が先に歩くのを待っていたらしい彼女の背中を軽く押すと、僕たちはリビングへと向かった。