愛罪
カタリ。彼女に、ティーカップに注いだ市販のアイスティーを出す。
ベージュのクッションを膝に抱いた真依子は少し距離をあけて座った僕を一瞥し、口を開いた。
「また来たわよ、彼」
「…後藤さん」
「そう。あたしは何も知らないって言ってるのに、二時間も粘ったわ」
よほど迷惑だったのだろう、普段からあまり感情を顕にしない彼女が少し怒っていた。
整えられた美しい眉が寄せられて、むすっと頬を膨らませている。
どんな顔をしたって美人は美人なのだということを、彼女を通して知った。
「彼、あたしを殺人犯にしたいみたいね」
物騒な言葉とは裏腹に、その横顔は清々しかった。単に呆れているだけかもしれないけれど。
それでも決して苦悩しない彼女は、やっぱり何かを隠しているようで。
凄く気になるけれど、単刀直入に尋ねたって吐かないのはわかっている。
だから何か策をと思案を巡らせる僕の横で、真依子はティーカップに手を伸ばした。
「あたしが殺りました、ごめんなさい。…そう言えば、彼もそらも満足?」
横目にちらりと僕を見てそう言うと、彼女は薄く開いた唇の隙間にティーカップを近づけて、アイスティーを一口流しこんだ。