愛罪
様子がおかしいと直感したのは、このときだった。
今更だけれど、真依子の目的は僕に話したいことがあるからだということを思い出した。
彼女が興奮気味に後藤さんの話をしはじめたから、すっかり忘れていた。
「僕に話したいことって、それなの」
真依子が嫌い。
彼女の目的があまりにも馬鹿げていて、腹が立った。
僕にそんな言葉を言わせるために、彼女はここを訪れたのかと。
僕の刺のある言い草にも動じず、真依子は続ける。
「あなたに嫌われなきゃ、あたし…」
その先は自分で考えてくれと言わんばかりに続きを飲みこんだ真依子は、まるで発言を後悔するよう唇をきゅっと結んだ。
ーーあなたに嫌われなきゃ、あたし?
彼女の声が木霊する。
彼女の言葉が木霊する。
僕に嫌われないと、何だって言うんだ。全く意味がわからない。
続きによってがらりと意味の変わる言葉を前に、僕の脳はお手あげ状態だ。
真依子は未だに口を閉ざしている。
僕は彼女に返す的確な言葉を必死で探しながら、その姿を見つめ続けた。