愛罪
何を伝えたいのかは皆目見当もつかないけれど、重要な何かを僕に打ち明けようとしているのは手に取るようにわかる。
ここを訪れたときからどこか落ち着かない様子だったし、何よりよく泳ぐ瞳が証拠だ。
「凄く…大事なこと、なの」
真依子はピアノに細い指先を掛け、小さな声を振り絞るよう呟いた。
僕は、無言で浅く頷いて見せる。
その反応を見て、隠すことなく深呼吸する真依子。
「妊娠……したの」
そして紡がれた短い言葉に、時が止まった。
別に呑気に彼女の言葉を待っていたわけじゃないけれど、頭の片隅にもなかった告白に軽く頭がパニック状態になる。
誰の子?だなんて無責任なこと、言えるはずがなかった。
相手が僕じゃなかったら、真依子がここまで躊躇を見せることはないのだから。
「…毎月必ず来るはずの日に生理が来なくて。まさかとは思ったのだけれど、何か病気だったらと思うと怖くて病院に行ったら、……妊娠、してたわ」
言葉を失う僕に見兼ねてか、真依子は自ら経緯を説明した。
後悔と葛藤を滲ませた表情は苦悩に染まって、目を伏せる彼女の仕草にようやく思考が追いついた。