愛罪
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枕許に置いていた携帯が震えて目が覚めた。
頭まですっぽりと被っていたシーツから手を出して手探りで携帯を見つけると、シーツの中に手を引っ込めて着信を取る。
「はい…」
「お兄…?」
目蓋を閉じたまま適当に電話に出た僕は、受話器の向こうから聞こえた愛おしい声にどきっとした。
まるで窺うような瑠海の小さな声が、眠気を吹き飛ばす。
「どした?」
シーツから顔を出して尋ねると、一瞬静かになる受話器の向こう側。
ちらりとカーテンに目を遣り、太陽の昇った正午過ぎだということを悟る。
耳に集中しながら目をこすっていると、瑠海が口を開いた。
「お兄のこと、許さないって言って、ごめんなサイ…」
憎いはずの僕に何の用事だろうと考えていれば、それは彼女からの謝罪の電話だった。
心から悪いと思い、謝るときの瑠海の癖。
照れ隠しなのか、語尾が棒読みになるのだ。
祖母とたくさん話した結果だろうか、瑠海の哀しそうな声色に愛おしさが込みあげてくる。
僕は一ミリだって怒っちゃいない。
寧ろ、瑠海が謝ることなんて必要ないくらいだ。