愛罪
約二時間後。
祖母が持つ合鍵で玄関の鍵が開けられる音に、はっと現実に引き戻された。
何かを求めるように振り返った僕は、リビングの戸口へ視線を遣って入ってくるであろう小さな姿を迎える心の準備を整える。
パタパタとリビングへ走る足音がぴたりと止まったかと思うと、小柄な身長で一生懸命にドアハンドルを捻った瑠海が顔を出した。
「お兄っ!」
戸口へ振り返っていた僕を見つけると、瑠海は久しぶりに見せる笑顔で僕の元へ駆け寄ってきた。
ソファに胡座をかいた僕の足に両手を置いて、可愛い笑顔で僕を見あげる。
「瑠海、おかえり」
以前と変わらない愛らしい笑顔。
それは、今の僕にとってとても頼もしい存在だった。
祖母に結んで貰ったであろうツインテールの片方を撫でるように触ると、瑠海は「お兄、変なのー」と僕をからかってキャッキャと笑った。
きっと、真面目な顔でおかえりだなんて言ったからだろう。
たった一日しか離れていなかったのに、僕には数週間も会っていなかったんじゃないかと錯覚するほど瑠海とのすれ違いは辛かった。
まもなく入ってきた祖母は、僕の胡座に座る瑠海を見て僕に優しい笑顔を見せた。
よかったと、そう思ってくれたのだろう。