愛罪
僕は最近、毎日のよう彼女のことを考えるようになった。
彼女とは、もちろん真依子のこと。
真依子が僕との赤ちゃんを身籠ったと僕に打ち明けてから、あっという間に丸二日が過ぎた。
答えはーー未だに出ていない。
「お兄ー、瑠海のピンクのシャツはぁ?」
「置いたよ。シーツに紛れてるんじゃないの」
朝、ベッドの上で着替える瑠海の声に僕はピアノの体を拭きながら答えた。
『一ヶ月に一度でいい。たっぷり時間をかけてピアノの手入れをしてやるんだ』。
このピアノを手入れしていた祖父に『何してるの』と幼いながらの好奇心で尋ねた僕に、祖父は相変わらずの仏頂面で教えてくれた。
祖父が他界してこのピアノがうちに来た日から、月一度の手入れを怠ったことはない。
祖父の三時間には叶わないけれど、僕は一時間をピアノの手入れに費やしていた。
「お兄ぃ」
つまらなそうな声で僕を呼ぶ瑠海。
鍵盤を拭いていた手をとめて振り返ると、ベッドに座る彼女が頬を膨らませてこちらを見ていた。
というか、軽く睨まれているような気がしないでもない。