愛罪
階段に差しかかり、一階に見えたのは非日常的な光景。
思わず眉を顰めた僕の瞳に映るのは、玄関を出入りする複数の警察官と救急隊員の姿。
取り乱すことなく、逆に冷静になれた僕は、葉月さんを支えて階段をおりながら問いかけた。
「泥棒でも入ったの」
警察官の姿を見れば、何となく絞られた選択肢。救急隊員は無駄に出動でも命じられたのだろうと。
けれど、葉月さんは震えながら首を横に振る。
怪訝に思いながら階段を降りたところで、慌ただしく動いていた警察官の一人が僕たちの前で足をとめた。
「安藤夏海様のご親族の方でいらっしゃいますか?」
「…僕がそうです」
僕の目をじっと見つめながら放たれた警察官の言葉は、僕の小さな違和感と重なるように脳内で合致した。
――“そう…でも気にしちゃうわ。お母様の部屋は?近くない?”
――“…ん。一階だから大丈夫”
ただの杞憂に終わるのならそれでいい。
母親の部屋が一階だと知った彼女。
僕に一言も声をかけず姿を眩ませた真依子が何か目撃したんじゃないかと、僕はこの場を葉月さんに任せ、引きとめる警察官を振り払って野次馬の見せ物になった自宅を飛びだした。