愛罪
「お兄、痛い!」
掴んでいた細い腕が、僕を拒絶するように離れた。
はっとして手の力を抜くと、そばにいたはずの瑠海は僕から距離を取るように素早く真依子の後ろへ回る。
残ったのは、罪悪感と虚しさと後悔。
真依子の目も瑠海の目も、まるで凶悪犯を見るかの如く訝しげだ。
「そら?どうしたの?瑠海ちゃん、怖がってるじゃない」
彼女は気づいていなかった。
もちろん、瑠海も何が起きたのか理解出来ていない様子で僕を盗み見している。
自分がわからなくなって、頭痛がした。
どうして瑠海を引きはがしたのか、何がそんなに怖かったのか。
確実に僕は参っていた。
それも、とんでもなく厄介なほど。
「…一人にして」
苦しいよと叫ぶ心が出した結論はあまりにも身勝手で、自分に嫌気がさした。
でも弱々しく吐き出されたそれを否定する気力もなく、真依子は何か言いたげな儚い視線を残し、瑠海を連れて部屋をあとにしてくれた。
瑠海も、何だか不安そうだった。悪いことをしたとは自覚している。
それでも、一人になりたかった。
己を罰するために、己を恥じるために。
そして、真剣に彼女の妊娠と向き合うために。