愛罪
鍵盤を晒したまま思案に耽り、どれほどの時が流れたのか。
真依子と瑠海が出て行ってから無音だった自室に、ある音が響いた。
驚くこともなく目線を横へずらすと、恐る恐る開かれるドアが瞳に映る。
言わずもがな、瑠海だ。
彼女の訪問にドアと向き合うよう広がる窓へと振り返ると、外はすっかり艶やかな夕焼けに染まっていた。
「…入っても、いい…?」
か細い声の方へ視線を戻すと、少し開けたドアから片目だけを覗かせている瑠海と目が合った。
僕は固まっていた顔の筋肉を久しぶりに緩めてぎこちなく微笑み、そして頷く。
すると瑠海は小さく笑って、ドアの隙間を猫のようにするりと抜けてドアを開けたまま僕に走り寄って来た。
「真依子、帰ったの」
「うん」
「…瑠海」
子ども特有のさらりとした質感の前髪を、割れ物に触れるよう指先で撫でる。
瑠海は「なあに?」と丸い瞳をきょとんと瞠目させて僕を見あげた。
僕は静かにイスからおり、瑠海の前に膝をついて目線を合わせると、触れることを一瞬躊躇った手で彼女の小さく愛おしい体をふわっと抱きしめた。