愛罪



「ごめんね、瑠海。…ごめん」



 縋るように瑠海の温かい体を抱きしめ、甘いシャンプーの香りを身近に感じながら呟く。

 情けない姿を見せたくないと意地をはっていた自分が嘘みたいに、僕は精一杯情けなく瑠海に謝罪した。



 瑠海が耳許で口を開いたのは、しばらく黙りこくったあとだった。



「お兄、真依ちゃんと喧嘩したの?」



 僕を許す許さないは後回しにして、彼女は少し躊躇いがちにそう訊ねる。

 瑠海に気づかれたんじゃないかと思うほど素直に反応した心臓は、微かに速度をあげて脈打つ。



 何と返せば瑠海の不安を取り除いてあげられるかと思案したのだけれど、答えは出なかった。

 唯一出せたのは、彼女の目を見て話してあげようという些細な案。



「少しね。でも、大丈夫だよ。瑠海が思ってるより、僕と真依子は仲良しだから」



 瑠海の体から離れ、彼女の両腕に触れながら僕は答えた。

 少しの真実と、少しの嘘を交えて。



 見つめる先にある瑠海の目は、僕の微笑を映して多少の不安感を宿したまま和らいだ。

 僅か四歳の彼女に僕と真依子の間を繋ぐほつれた糸を見せてしまったのは、迂闊だった。



「ずっと仲良しでいてね?瑠海、真依ちゃんとお兄が大好きだから!」



 瑠海は僕の頬をむぎゅと小さな手で挟んで、無邪気に笑う。

 無言で頷いた僕にいい子いい子と頭を撫でてくれる彼女の笑顔を見つめながら、密かに思案していた想いを真依子に話すことを決意した。



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