愛罪
「やだ」
包丁を持つ葉月さんの腰に後ろから抱きついた瑠海にひやっとさせられつつ、僕は眉根を寄せて瑠海を後ろから抱きあげた。
ばたばたと足を暴れさせた彼女を何とかソファへ運び、キッチンへ戻る。
「私、そらくんがこんなにお兄さんをしてらっしゃるとは思ってませんでした」
切り終えたキャベツをお皿に盛ってラップを被せる葉月さんの言葉に、僕は油から一瞬目を離して隣を一瞥する。
「葉月さん、それって嫌味?」
「とんでもない!驚いてしまって…ごめんなさい!」
瞠目して否定する葉月さんが可笑しくて、僕は唇の端を軽くあげて笑う。
そこで僕にからかわれたのだと理解したらしい葉月さんはほっとしたように目尻をさげ、短くなった黒髪を耳にかけてはにかんだ。
そのあと、僕は葉月さんと共に唐揚げを揚げはじめた。
葉月さんは僕の好きな食べ物を訊ね、幼少期からの好物を答えると唐揚げの材料をわざわざ買って来てくれたのだ。
少しは距離を縮めることが出来ただろうか。母親の大切な人だったのだ、僕には彼女を大切にする義務がある。
隣でカウンター越しに瑠海と会話する葉月さんを盗み見しながら、少しずつ作られていく団欒を密かに嬉しく思った。