愛罪
母親の死因は、首を吊ったことによる窒息死だった。
命はいつだって、呆気なく奪われる。
悲しくともそれが世の摂理だ。人間は必ずいつか息絶える。
わかっていても、決して愛情など持ってなかったとしても、唯一無二の母親が理由(わけ)も残さず自殺したのは、僕にとってはあまりにも衝撃的だった。
確かに、去年父親が不慮の事故で他界してから母親は持前の明るさを喪失した。
気づきながらも何もしてあげられなかったのは、親子という関係に僕が溝を作りすぎたからかもしれない。
母親も、息子の僕に気を遣い、助けを請うことを諦めていたのだろう。
目に見えないものは信じない。
そんな大口を叩いていたくせに、僕は目に見える母親の闇を見てみぬふりをしていた。
息子失格だ。本当に。
失ってから気づくなんて、そんな安っぽい後悔では済まされないほど、僕は取り返しのつかぬ過ちを犯してしまった。
「そらくん、お通夜は午後4時…」
「…大丈夫。ちゃんと行くから」
自室のドアをあけると、憔悴した葉月さんが弱々しくお通夜の時刻を伝えにきた。
僕は笑うことなくひとつ頷くと、母親の突然の死を心から悲しむ彼女を見ていられなくてお礼も言わずにドアを閉じた。