愛罪
「…葉月さん、瑠海を頼んでもいいですか」
母親からの衝撃的な告白に目を通して、開口一番に出たのは葉月さんへのそんな言葉だった。
頭を整理するよりも先に、僕にはやらなければいけないことがある。
出来ることなら、今すぐ。
葉月さんの返事なんて聞かずに家を飛び出したい衝動を必死に抑えながら、僕は心なしか不安げな瑠海の頭を優しく撫でる。
「そらくん…」
「大丈夫。葉月さんも読んでおいて。必ず戻るから」
果たして何が記されていたのかと恐怖にも似た眼差しでこちらを見る葉月さんに軽く笑いかけて、畳んだ便箋を彼女の華奢な手に握らせる。
すっかり大人しくなった瑠海は、ソファから立ちあがった僕を目で追い、きゅっとシャツの裾を掴んだ。
「お兄、どこいくの?」
行く手を阻まれた僕の体は後ろに引かれるよう停止して、はっと彼女を見おろす。
その大きな瞳は、決して儚いだけではなくどこか僕を見抜くように力強かった。
でも、答えてあげることは出来ない。
わからなかったことがほんの少しわかっただけで、全ての真相が明るみになるまでは瑠海にはまだ、何も話せない。