愛罪
「…気になる人がいるんだ。あんたにも聞いてて欲しいから、ここで連絡するね」
ジーンズのポケットから携帯を取り出して、僕は迷うことなく見慣れた名前を画面に表示させた。
気になる女性というはもちろんーー二条真依子だ。
どうして、自分は関与していないと主張せずに僕と関わったのか。
知らないと言いながらも、核心を口にせずに僕を泳がせるような真似をしたのか。
正直なところ、全くわからない。
彼女の意図が、心が、想いが。
母親の遺書を読み、真っ先に浮かんだのは真依子の姿だった。
母親は彼女の父親と知り合いで、真依子は僕の母親と面識があった。
果たして偶然なのか、必然なのか。
偶然だとすればそれまでだけれど、もし必然だとすれば、真依子には何らかの想いがあってのことだと思う。
ただ、母親の死の真実が知りたかった僕だけど、今は真依子が気になって仕方がない。
本当はひとりになれる場所で彼女に連絡をするつもりだったけれど、父親にも聞いていて欲しかった。
真依子の想いを知るため、彼女には手紙を見つけたことは言わずありのままの気持ちを聞こうと思う。
僕は誰もいない霊園の中で父親の墓石と向き合いながら、真依子に電話をかけた。