愛罪



 繰り返される呼び出し音。

 これほどまでにこの音は単調で冷たいものだったのかと、このとき初めて知ったような気がした。



「…もしもし?」



 ぼうっと機械音に耳を傾けていると、それがぷつりと途切れて彼女の美声が聞こえた。

 儚くて、今にも壊れてしまいそうな真依子の声は、何だか久しぶりに聞いた気がする。



「…そら?」

「何かあったの」



 窺うように訊ねるその声がとても痛々しくて、僕は思わず聞いてしまった。

 相変わらず自分でも笑ってしまうほど素っ気なくて感情も何もない口調だけれど、一応、心配したつもりだ。



 電話の向こうで、彼女が息を飲んだのがわかる。

 何を動揺したのかはまだ僕にはわからないけれど、真依子の中で何か変化が起きていることは手に取るようにわかった。



「あなたこそ。何かあったから電話して来たんでしょう?」

「僕はいいよ、後回しで」

「…妙に優しいのね」

「茶化さないで」



 淡々と続く互いを探るような会話は、やっぱり僕と真依子で。

 小さく笑った彼女の様子にほんの少し安堵した自分の素直さは、奇妙なほどむず痒い。

 好きと嫌いは、紙一重。

 そんな表現があるように、僕もまた、真依子をそんな表現で表せるほどいつの間にか彼女に対して信用も疑心も持ち合わせていた。



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