愛罪
「そらの、お母様…」
父親の墓石を囲むように生える雑草を弄っていれば、真依子は決心したように言葉を絞り出した。
それは、まさしく僕が切り出そうとしていた話題であり、彼女の胸の内を知るためのもの。
まさか真依子からその話をぶつけてくるとは意外で、僕は黙ったまま彼女の言葉を待った。
「あたしが、殺したのよ」
間もなく紡がれたのは、真実を知る僕には理解不能の行き過ぎた嘘だった。
冷徹に吐き出された一行に、僕は言葉もため息も出ない。
「あたし、悩んだの。そらも瑠海ちゃんもいつの間にか大切な存在になってしまって、自分が凄く憎かった。赤ちゃんも望まれた命じゃないのにあたしなんかが母親でいいのかって…だから、最後に真実を打ち明けてあなたと、さよならがしたかった」
徐々に弱くなった声は次第に震えて、最後は溶けるようにそっと消えた。
真依子が並べた言葉たちが僕には難解な暗号にしか聞こえなくて、彼女がどうしてそんなに悲しそうに嘘をついたのか、わからない。
そもそも、さよならとはどの別れだろう。
もう、会わない?
それとも、永遠に?
ぐるぐると回るのはあくまでも僕の思案した結果であって、真依子の意思には掠っていないかもしれない。
でも、どうか後者ではあって欲しくなかった。