愛罪
「今までたくさん困らせたこと、許して欲しいとは言わないわ。ごめんなさい。そらと瑠海ちゃんに会えて、本当によかった。……ありがとう」
無口でいる僕に、真依子はそう告げた。
まるで、最期みたいじゃないか。
これから死ぬ人間が本当の気持ちを伝えて、バッドエンドになってしまう恋愛ドラマのような寂しい台詞。
それを僕は、聞いてしまった。
刹那、どきっとした。
しばらく続く無言を経ると、真依子に電話を切られれば全てが終わってしまう。そう直感した。
「じゃあ…」
「待ってよ。僕、まだ真依子に話したいこと話せてない」
「いいのよ、もう。あたしはそらの前から消える。それで全て終わりよ」
自分勝手に通話を終えようとした彼女を呼び止めたけれど、真依子は聞く耳を持とうとはしなかった。
それどころか、僕にだけシコリを残して消えようとする始末。
さすがの僕も、我慢の限界だ。
「今、どこにいるの」
「………」
「どこ!」
「…うちにいるわ」
「絶対に外、出ないで。絶対」
少し声を荒らげた僕に、真依子は素直に、だけど不服そうに居場所を告げた。
僕は彼女の返事を聞かずに電話を切り、父親の前から腰をあげてしばらく見つめ合たあと、彼に背を向けて走り出した。